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新英語教育研究会神奈川支部HP

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2001.9 会報90:3年間を見通した多読指導

■2001年9月(会報No.90)
●実践報告(高校):「3年間を見通した多読指導の取り組み」
          萩原 一郎さん(県立白山高校)
◆ 前任校の県立港北高校での3年間に7冊のサイドリーダーを読ませる取り組みを報告していただきました。「でも時間がない」「でも生徒の力が…」とおっしゃらずに、このレポートをヒントにされ、ぜひ日々の実践にいかして下さい。

(1) はじめに
● 多読指導の動機:2回目の1年生担任のとき「ぜひ3年間を見通した英語学習の取り組みをしたい」と考えた。
・単語帳の代替物としての読み物:港北高校では伝統的に3000語レベルの単語帳を全員に購入させ、1,2年の定期テスト範囲として出題してきた。3年生にアンケートを取ったところ、機械的な語彙学習に否定的だったため、自分の学年では何か違う取り組みをさせたいと考えた(萩原先生ご自身も単語帳使用には否定的ということです)。また、授業中に教科書以外に、他の教科書やサイドリーダーから抜粋して、Snow Goose (ほのぼのしたお話)、Lost Names(筑摩書房の『Raccoon』にある、日本統治下の朝鮮半島における創氏改姓を扱った作品)、Cats’Toilet Mannersなどを家庭学習用に読ませており、手応えを感じていた。
● 多読指導の目標:他校の進学校では、3年間で15冊(!)というところもあったが、中堅校のため、7冊にした。学年の同意も得られ、3年間を見通した取り組みとなった。

(2) 7冊
● 1年生の夏休みからスタート
 1. 1年夏休み:物語文 The Man Who Planted Trees(桐原書店)
 2. 1年2~3学期:説明文 Look and Try(桐原書店)
 3. 2年1~2学期 『沖縄 ― 光と影』(三友社出版)
 3. 2年夏休み:物語文 Skyjack(桐原書店) サスペンスもの
 4. 2年2~3学期:説明文 Look and Try :Focus on Our Time(桐原書店)
 5. 3年1~2学期:説明文 World Scope :People and Issues(桐原書店)
 6. 3年夏休み:物語文 Ryuhei(桐原書店)薬害エイズと闘う川田龍平さん

(3) 方針
●教材の選び方:テーマは偏らず、文学・人物・平和・環境など。
・教科書とタイアップ(環境問題を教科書で読んだら、サイドでも扱う)、また修学旅行とタイアップ(2年の夏休みに沖縄に関するサイドを読む)。
●読み方の指導:最初のページを授業で読み合わせをして、どのように読むかを指導。
・「下の註を参考にして、分からない部分があっても気にせず、あらすじを読みとることを第一目標とすること」「全文和訳の必要はない」
●課題提示後の扱い:レポートは一切課さない。夏休みの課題テスト(80~85点分)、定期テスト(15~25点)で出題。
・「教材の難易度」「生徒の読み方」「生徒が苦労している点」を随時アンケート調査。例えば『沖縄 ― 光と影』は難しいという生徒の声があり、「単語熟語集」を作成、配布した。次のサイドリーダーの選定や指導に生かした。

(4) テスト
●文法・語法や細かい内容に関する問いは原則として出題しなかった。
●大まかな内容に関する問いにして、基本的に2回程度読めばできるものとした。
・物語のあらすじを1~7まで並べ替える/カッコ穴埋め3択で、物語の内容を問う。

(5) アンケート
3年で7冊読み終えて…   good(○いくつでも) best
 1. The Man Who Planted Trees   83        22
 2. Look and Try         47        14
 3. 『沖縄 ― 光と影』   73        14
 4. Skyjack        147        89
 5. Look and Try : Focus on Our Time 42         8
 6. World Scope : People and Issues 58      14
 7. Ryuhei         135        77
●best+その理由
 1. The Man Who Planted Trees :(生徒のベスト3)「とてもよい話だった」「英語の本を1冊読むというのは、初めてだったため、苦労して読んだことを覚えている。内容も感動できた」「簡単な英語で物語が最後まで読めたという充実感があったから」
 2. Look and Try:[イチロー/山田かまち/アニメが好評]「勉強していて内容が身近な話題で進めやすかった」「イチローがいたから」「この中で山田かまちを知って、興味が湧き、詩集を買いました」
 3. 『沖縄 ― 光と影』:「修学旅行が沖縄だったので、実際現地に行ったことで、本の中に書かれている内容が他の本よりもよく理解できた。でもこの本を読むのに沖縄に行っていなかったら、特に力を入れて読まなかったと思う」
 4. Skyjack(ベスト1!):「すごく楽しかった。『エアフォースワン』みたいで面白かった」「ハラハラドキドキ、スリルとサスペンス。特にパスポートを食べたところが印象的だった」「サクサク読めた。あと、内容がつまんなくて笑えた」「危機迫る機内の様子が面白かった。人間関係も」
 5. Look and Try ミ Focus on Our Time:「コンビニ、ファミレス、リサイクルなど、とっつきやすく興味深いものが多かったから」「いちばん身近な内容だった」
 6. World Scope ミ People and Issues:[イルカの動物セラピー/杉原千畝/国境なき医師団が好評]「これに載っていた人々のほとんどが人知れず善い行い、自分の意志を貫き通した行動をしていてそれにスポットをあてたWorld Scopeは良かった」「イルカが少年の心を開いた話を読んで泣きそうになった」「感動した話があった。英語を読むことは素晴らしいと思った。英語のフレーズが印象深い」「世界のさまざまな問題を、そこに携わる人を紹介し、その人の行動を通して考えることができたのがよかった」
 7. Ryuhei(ベスト2):「世間では過去のものとして扱われている気がしたが、改めてまだ終わっていないこと、川田さんがみんなに訴えたいこと、人と人との絆など印象に残った。[薬害エイズ関係のニュースを集めたビデオの]VTRも深く心を打たれた」「自分がエイズだったら、と思って読んだらすぐに共感できた」「エイズという問題を身近にとらえることができ、それまでは一部の人の問題だと思っていたが、世界的な問題だと考えるようになった。日本社会の問題点を鋭くついていて良かった」

(6) アンケート
●(a) まとまりある物語vs. (b) 短いトピックスもの:どちらもよいと生徒は考えている
・まとまりある物語:「読んだ!って感じがする。読み応えがある」「社会でとても大事なことはまとまりのある1冊にした方が良いと思う。Ryuheiはとても大事!!」

(7) アンケート
・短いトピックスもの:「読みやすいし、少しの時間でも区切りよく読める」
・どちらともいえない派:「テストのことを考えると(a)、純粋に読みたいときは(b)がいい」「どっちもめんどい」「どちらもあまり苦にならなかった」
●7冊読んでみて 
 (a)よかった(114) 
 (b)よくなかった(26) 
 (c)どちらでもない(100)

(a)「課題がなかったら、自分からは絶対に7冊も読まなかったと思う」
(b)「教科書で精一杯だったから、邪魔だった」「人が訳したものをコピーする人もいて、あんまり意味がないと思う」「単語を覚えていなくても流れを覚えて、テストを解ける」
●7冊読んでみて、英語を読むときに 
 (a) 変化あり(90) 
 (b) 変化なし(141)

(a)「長文に慣れた」「「次の内容が推理できるようになった」「分からない単語はうまく処理して、無闇に辞書を引かない」「日本語訳するのが得意になったし、ポイントを押さえて読めるようになった」「文章全体を見渡すようになった」
●みなさんは単語帳を使いませんでしたが、
 (a)サイドリーダーがよい(96) 
 (b) 単語集がよい(60) 
 (c) 両方必要ない(15) 
 (d) 両方使いたい(69)

(a)「単語集だと覚えるのにかなりつらい」 
(b)「1,2年は基礎的なことをやりたかった」「実力がつく。入試に対応できる」 
(c)「自分でやれるから」 
(d)「なんだかんだ行ってもやっぱ語彙力なんだと思う。気持ち的にも知っているのがあると落ち着くし」「受験を目前にした今だと単語集をやっていたらどんなにありがたかったかと思う。でもそれ抜きに英語の勉強面で考えると、サイドリーダーの方が面白いし、やる気になる」

■レポーターの感想
 □ 議論の柱が絞りにくいレポートですみませんでした。これを機会に「多読指導」の実践が広まってくれることを願っています。

■参加者の感想
 □(アンケートを採るのは)私もとてもイヤな意見が出たりして、授業の感想を書いてもらうのをためらいますが、現実を直視するためにアンケート活動は重要だと思う。私の場合は授業を変え、改革するためにアンケートを採ります。萩原先生は膨大なレポートを本当に根気よくまとめていて感心しました。
 □ 文化祭の1日目で、担任ではないので気疲れ程度ですが、それと予想外に(?)本当にジェイミーさんが参加してくれたので、レポートの英語の説明で必要な部分をどこか考えるのと、自分が話についていくのとで、必死の参加でした。(O先生の通訳があって、ジェイミーさんも助かったことでしょう!) 実感としては、自分のところの生徒に多読は無関係で、遅々としてじっくりじっくり確認して、「一緒に読もう」と、なんとか読んでもらっているのです。
 □「多読」をもっと入れたいと思う。生徒の興味は多様であるので、そう感じられた。
 □この多読指導では、最後まで読む楽しみを実感させる“サスペンスもの”の『スカイジャック』、ミドリ十字・厚生省などの関係者に対して、責任(responsibility)だけではなく、説明責任(accountability)を求める川田龍平さんの思いを綴った『Ryuhei』など、コトバを通じて社会を考えさせ、「英語で読む意味」がある教材が上手に配置されていると感じた。

■ 龍平くんの視点 会報No. 58より
(a) 訳語へのこだわり: responsibility ではなく accountability を使いたい!
オランダ生まれのジャーナリスト、Caren Van Wolferen氏を通じaccountability (説明責任)という語を龍平くんは知り、responsibility (責任)と違うと言って、語彙制限がある中で使いたがった。
・ Responsibility refers to a person’s moral behavior. A responsible person has a character that makes him or her understand the consequences of his or her actions, and makes him or her worry about that. And so, as a result, a responsible person tries to do things very well, ’responsibly’.
・ Accountability is related to this, but it is a different thing, because it refers to structures of a political setup or organizational setup, where the person or the organization has to explain to outsiders what he or she, or it, for an organization, is doing and why.
(b) コトバへのこだわり:「頑張ってください」ではなく、「共に頑張りましょう」を!
 龍平くんはこのような薬害問題を他人事ではなく自分にも起こりうるものだととらえて欲しい、被害者をsympathyやpityの目で見ないで欲しい、と訴えてきた。その姿勢を最も象徴するのが、「頑張ってくださいではなく、共に頑張りましょうと言われるのがうれしい」という彼のことばである。他人事のように、被害者に「頑張ってください」と突き放して言うのではなく、自分の問題ととらえて「共に頑張りましょう」という意識を持って欲しい…、この 龍平くんのひたむきさと鋭い感性は私たちの心をとらえる。


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